2019
GENERATION Z
開館時間 12:00 – 19:00
閉館日 火曜日・水曜日
入館料 無料
from COMMAND Z to GENERATION Z
‘およそ20年前のコマンドZの展覧会が開催されたのは2000年の始めであり、その時代にジェネレーションZが生まれる。’ フューチュラは自分自身の過去を振り返る事と同時に、未来を見る事も大事だと思っていると話し、制作について次のように語っています。「グラフィティは自分の存在意義を確認するためのものだった。自分の名前を世界中に知らしめたかった。名を轟かせたかったんだ。ただ諦めずに創り続けること。立ち止まらず、ひたすらに創り続けるんだ。」
約20年ぶりに日本で開催される本展覧会では、4つの異なる彫刻作品や、2019年の日本滞在中に制作された27点のコミッションワークを展示いたします。本展覧会では、フューチュラの息子であり13th Witnessの名で知られるフォトグラファー、ティモシー・マクガーの作品も展示予定となっており、親子での合同展示は初の試みとなります。
Futura:
グラフィティというものが公のアートギャラリーに認められ始めた時代のパイオニアであるアーティスト、フューチュラ 2000(本名:レナード・ヒルトン・マクガー)は1970年代後半に早くもグラフィティにおいて革新的なアプローチ、すなわちそれ以前はレター(文字)を基本としたルールが存在していたのに対して、アブストラクトなスタイルを世の中に示した事で知られています。彼のキャンバス作品は1980年代に注目を浴び、ジャン=ミシェル・バスキア、キース・ヘリング、そしてケニー・シャーフとともに大きなアートムーブメントの立役者となりました。彼は『サブウェイ・スクール』と呼ばれるニューヨークの地下鉄グラフィティシーンにおいてグラフィティを全て独学で覚え、彼の熟達した色彩感覚、幾何学的な構成、そして線はワシリー・カディンスキーの作品にたとえられています。そして、彼の友人でもあるドンディ・ホワイトやラメルジーとならび革新的で最新のダイナミズムを表現する作家として称えられています。
© Futura, POST PRODUCTION, 2019
(90 × 150 × 4.8 cm)
Liquid and Magnetic Radiation
開館時間 12:00 – 19:00
閉館日 火曜日・水曜日
入館料 無料
The Massではセブ・ジャニアックによる日本初個展を開催いたします。
30年以上にも及ぶ写真家としてのキャリアを通して、セブ・ジャニアックは驚くほど多彩な領域を探求してきました。革新的な技術と独特な視点が際立つマット・ペイントのシリーズ以降、写真が持つあらゆる可能性を取り入れながら、見事な調和が作品におとしこまれています。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活動を始めた若き⽇のジャニアックは、アーティストになろうという明確な意思を持っていたわけではありませんでした。好奇心の赴くままに制作をし、偶然に出会ったカメラで実験的に制作を続けたことが、数々の作品を生み出すきっかけとなりました。
1987年になると、テレビや映画制作の現場ではQuantel社のPaintboxの使用により、イメージ生成やデジタル加工が可能になりました。ジャニアックはこれらの本来の⽤途を超えた技術を用いた第一人者の一人です。彼のとめどない空想の世界に、これまでにないリアリティさを組み込み創られた作品は、写真美学に新たなの価値をもたらしました。様々な国で撮影されたイメージがデジタル技術により、大判サイズのフィルムにまとめ上げられています。圧倒的な透明感を放つSFの世界が創り上げられており、この新たな作品スタイルは、セブの作品を皮切りに、その後20年間で主流なスタイルとなりました。
セブ・ジャニアックは、アーティストとして作品を創り続けることで世の中に示唆して行きたいという絶え間ない欲求を持つパイオニアとして、世の中を観察し、挑み続けています。現実を理解する手助けとなるもの、新たな視点のきっかけとなるもの、意味を生み出すものへ強い渇望を持っています。彼は、確立されている現象(特に宗教、科学、天体物理学)であろうと、ニッチな領域(秘教やUFO研究)であろうと、彼の想像力は時間や場所を超越して、多様性を持つ⼈类を対象としています。
初期のデジタル写真作品で成功を収めたジャニアックは、1995年には広告の世界で一躍時の人となります。写真からビデオへとそのスタイルを移⾏させると、すぐに著名なミュージシャンたちから声がかかり、ダフト・パンク、ジャネット・ジャクソン、ロビー・ウィリアムスらのミュージック・ビデオを手掛けることになりました。
その後の10年にも及ぶ多忙を極めた生活により2015年に体調を著しく崩したジャニアックは、大幅なライフタイルの変更を余儀なくされました。そして、委託制作から一線を退くことを選択し、再び初期の作品制作に立ち返り、新たな写真作品におけるスタイルを追求することになりました。「チベット死者の書」などの伝統的な東洋の文献や西洋美術史などの様々な文脈からインスピレーションを得て制作を続け、自然やアイディアを表現したアンサンブル作品を作り出しています。
2009年以降、ジャニアックは自身の新たな挑戦として、二重露出、スーパーインポーズ(映像に画像や⽂字などを合成する技術)、フォトモンタージュ(合成写真)といったアナログ写真の技法に制限しながら探求を続けています。
―Paul Frèches(ギャラリスト、キュレーターを経て、現在は在上海フランス総領事館所属⽂化担当官)
Liquid (2014)
2種類の流体(液体と気体)の間にある永続する⼒(重⼒や流体力学)のバランスを考えると、純粋な形とは何かを考えることになり、実際に私たちが見ている姿形は、景観や環境を通すことによってのみ見ることができているということが分ります。「形がある存在とは実体がないのであり、実体がないからこそ形ある存在となる」という格⾔があるように、形そのものを作り出す知識/情報がなければそれそのものは存在しないのです。
以下の引⽤にもあるように、
「この世界には、現実的・具体的なものは存在せず、相対的な側面が世界のあり方であり絶対的なものは存在しません。(…)現象は、原因や状況が時に依存したり、自立したりし合う関係性の中で起こります。しかし、それ⾃身で現象が起こることはないのです。真実を考察することは、この世界の概念を超越する事でもあるのです。」
このシリーズでは、圧縮空気ボンベに取り付けられたバルブから出る空気と液体から泡が作られ、液体の粘性が圧⼒による泡の変形を遅らせ、圧縮された泡の重なりが発⽣しています。真空空間という内在するものが外に出ることのない性質を利用し、撮影時には周辺環境からの反射により、作品を照らすようにしました。
Magnetic Radiation (2011 – 2012)
「Magnetic Radiation」のシリーズで強磁性流体(鉄ナノ粒⼦を含む液体)を使ったのは必然でした。磁力線の動きを可視化し、撮影では複数の磁場を並行や反並行に配置することで磁場の力と距離に変化をつけていきました。強磁性流体は漆黒なため、周辺環境の反射によってのみ確認することができます。
これは目に見えない領域がイメージとして生み出される’発現’に似ています。自然界における美しさとは、それぞれに原子レベルの構造がもたらされており、それらは物質が形作られた宇宙の起源にまでさかのぼります。そして、1400万年の時を経て、私たちに生きていることの意味を改めて考えさせることとなるのです。
注: ポストプロダクションによる、色補正、レタッチ処理、特殊効果などの加工はしていません。2009年より、ジャニアックはこの探求に新たな条件を設け、1850年以来使⽤されているアナログ写真の技術のみでの制作を行っています。具体的には、写真のパイオニアであるヘンリー・ピーチ・ロビンソン、エドゥアール・バル デュス、ギュスターヴ・ル・グレイなどに着想を得た⼆重露光、重ね焼き、フォトモンタージュなどです。
Seb Janiak The Kingdom
100部限定
ソフトカバー
42 x 26 cm
39ページ
テキスト 英語・日本語
2019年
Mimesis シルクスカーフ
柄 Mimesis 5種限定 (各モチーフ12枚)
素材 100% シルク, 手巻き
94 x 94 cm
Made in France, 2019年
受注発注 (4 週間)
© Seb Janiak, Liquid 01, 2014
12 TITLES
開館時間 12:00 – 19:00
閉館日 火曜日・水曜日
入館料 無料
The MassではToluca Éditionsを開催いたします。
写真のタイムカプセル
1860年代に日本中に普及した写真館では、ダゲレオタイプそして湿板というかたちで主に肖像写真が撮影されていた。1848年、のちの薩摩藩藩主である島津斉彬によって写真機が日本に輸入されて以来、各地に定められた開港場を通じて写真を含む西洋の技術が日本の近代化を支えることになる。日本における写真機の使用目的は主に肖像と風景の撮影であり、その点では西洋と同様だが、輸入されたばかりの写真技術は日本固有の活用方法をもって全国に普及する。その文化的差異は、現存する湿板写真に窺える。西洋で撮影された湿板は金色の額縁に収められていたのに対し、日本で製作された湿板は檜製の共箱に安置されていた。その箱には撮影日と被写体の名前が墨で記載されていた。写真の私的な鑑賞を促すこの工芸的な保存方法は日本においても、写真プリント(鶏卵紙そしてゼラチンシルバー·プリント)の普及とともに失われ、それに取って代わるかたちで「写真アルバム」が新たな定型となった。写真アルバムという個人的な編集物はさらに、写真印刷技術の発展と共に「写真集」に押しのけられた。二十世紀の視覚文化において写真を中心的な存在として据えるうえで多大な影響を与えた写真集は、「書籍」というフォーマットをもって写真とテキスト(文芸と理論)の関係性をより強固なものにした。デジタル·ポートフォリオが主流となった、非物質化した写真の現在において、手書きで記載された共箱に収められたガラス板写真は化石のような存在である。
そのなかでトルーカ出版は十五年前から、豪華にして妥協のない写真出版事業を通じて、写真というモノを革新しながら現代的な存在として維持し続けてきた。デジタル画像の氾濫によって写真集というフォーマット自体が危機的状況に晒されている現在、トルーカ出版は、箱入り写真と写真集との中間点に位置する、独創的な写真オブジェを製作し続けている。その製作方針はシンプルでありながらユニークである。トルーカ出版の出版物とは、特製ケースにテキストおよびオリジナル写真プリントを含む未綴じのルーズリーフが含まれているものである。各タイトルの製作にあたって、写真家、執筆家、そしてデザイナーがそれぞれ写真、文章およびケースという構成要素を作り出し、トルーカ出版側がそれらを編集し、グラフィックデザインを施す。
トルーカ出版の製作物は写真集と同様に、テキストとの深い関わりを持つ。掲載されているテキストはモノグラフィーに掲載されるような作品解説でなければ、クリス·マルケルや荒木経惟らの写真集に載る、写真家自身による文章でもない。その製作物の柱となる写真の視覚的世界に緩やかに呼応する、独自の文芸作品である。また写真集と同様に、トルーカ出版の製作物は、写真·テキスト·デザインという三つの分野のマルティプル·アートに基づく点において、二十世紀の文化製作技術と深い関わりを持つ。これら三つの分野は、大量生産を視野に入れた技術インフラを必要とする。その点では、トルーカ出版の製作物は現代的な文化オブジェの象徴である。
写真、テキスト、デザイン。トルーカ出版の製作物は三重の意味でマルティプル·アートである。しかし、マルティプル·アートにおいて部数を限定することは極めて恣意的な決断であり、その背景にはだいたい商業的な打算が働いている。写真プリントや版画など本質的にマルティプルであるものを、なぜ部数限定で販売するのか。部数を限定して作品価値を高める戦略は、彫刻の経済モデルに由来する手法である。ところが、トルーカ出版の製作物には、まさに彫刻的なクオリティを見いだすことが可能であり、各製作物を部数限定で発行する意味はそこにある。個々のケースには、独創的なデザイン、豪華な文芸出版とヴィンテージ写真を束ねる、統合的な作品が収められている。トルーカ出版の製作物を鑑賞するうえで重要な要素は、その感触である。写真の粒子(その点において、カンディダ·へーファーの高解像度プリントから森山大道による粒子の荒い東京風景写真まで、トルーカ出版の嗜好は幅広い)、最適な印刷紙の追求(良質な写真集には必ずよい紙が選ばれている)、そして形状と材質をもって写真および文芸作品の世界観を凝縮するケース。これらはすべてテクスチャである。
より本質的なレベルで、トルーカ出版による製作物の特徴は写真の時間性を複雑化することにある。一枚一枚の写真は、撮影された時点で独自の時間性を有する。その画像に含まれる記号によって、また写真と同じ紙面に掲載されたテキストとの関係性によって、その時間性が複雑化する。ある蒐集家がトルーカ出版による作品を購入すると、その作品は特製ケースに保護され、外気に触れずにゆっくりと経年変化していく。トルーカ出版による製作物は、写真のタイムカプセルである。
実際に一つの製作物を手にしてその特製ケースを開けると、一般的な書籍のように直線上でない、その出版物独自の空間性が繰り広げられる。トルーカ出版の多くの製作物は未綴じのルーズリーフを使用しているため、写真および文芸作品の体験がより自由になり、展覧会のように複雑なパターンをもって構成される。デュシャンによる『トランクの中の箱』を連想されるものである。ケースには、綴じられた本の代わりに折られた用紙が収まっている。折は空間を区切り、新たな次元を生み出し、読書体験において複雑な時間性を生み出す。折とは非言語的な結界である。
コンパクトな書斎にトルーカ出版が発行した全42点の製作物がぎっしりと並ぶ姿を想像してみよう。その個々のタイトルには小宇宙のように、独自の時間性と世界観が含まれている。写真愛好家として、このユニークにして有機的な出版世界をさらに複雑化するであろう、トルーカ出版による今後の製作物の発行を期待するばかりである。
大澤 啓(東京大学総合研究博物館インターメディアテク特任研究員)
トルーカ・エディションズはアレクシス・ファブリーとオリヴィエ・アンドレオッティの二人により2003年に設立され、パリを拠点とするユニークな出版社です。フォトグラファー、ライター、デザイナーとのコラボレーションにより制作されるカスタム・メードの外装は、20世紀初頭に生み出された「アーティスト・ブック」という新しい芸術形式を用いた、ハイブリッドなアート・オブジェです。
オリヴィエ・アンドレオッティはグラフィック・デザイナー、アーティスティック・ディレクターとして、カルティエ財団現代美術館、ジュ・ド・ポーム国立美術館、ドーハ・イスラム美術館、パリ市立近代美術館、メキシコ国自治大学付属チョポ美術館などで、定期及び限定出版物、展示カタログ、コーポレート・アイデンティティ(CI)、シグナル・システム、展示デザインなど多岐にわたる分野で活躍しています。また、ルイ・ヴィトン、ヴーヴ・クリコ、ヘネシー、ヴァン・クリーフ&アーペルなどの様々な一流ブランドとのプロジェクトに携わっています。
アレクシス・ファブリーは、The Anna Gamazo de Abelló Collection及びThe Leticia & Stanislas Poniatowski Collectionにキュレーターとして関わりながら、「Urbes Mutantes(国際写真センター(ICP)、ニューヨーク、2014年)」、「Latin Fire(CentroCentro、マドリッド、2015年)」、「Daido Moriyama, Daido Tokyo(カルティエ財団現代美術館、パリ、2016年)」、「Transiciones(シルクロ・デ・ベジャス・アルテス、マドリッド、2016年)」、「Géométries Sud(カルティエ財団現代美術館、パリ、2018年)」などの展示でキュレーションを担当。プライベート・コレクションのコンサルタンティングをする一方で、メゾンエルメスの副アーティスティック・ディレクターとしても活動しています。
VOL. 42 • Thomas Ruff, Patrick Bouvet, Herzog & de Meuron, World Wide Cloud, 2018 © Toluca Éditions