2019

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The Kingdom

JUNE 29 - JULY 28, 2019

開館時間 12:00 – 19:00

閉館日 火曜日・水曜日

入館料 無料
 
The Massではセブ・ジャニアックによる日本初個展を開催いたします。
 
30年以上にも及ぶ写真家としてのキャリアを通して、セブ・ジャニアックは驚くほど多彩な領域を探求してきました。革新的な技術と独特な視点が際立つマット・ペイントのシリーズ以降、写真が持つあらゆる可能性を取り入れながら、見事な調和が作品におとしこまれています。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活動を始めた若き⽇のジャニアックは、アーティストになろうという明確な意思を持っていたわけではありませんでした。好奇心の赴くままに制作をし、偶然に出会ったカメラで実験的に制作を続けたことが、数々の作品を生み出すきっかけとなりました。
 
1987年になると、テレビや映画制作の現場ではQuantel社のPaintboxの使用により、イメージ生成やデジタル加工が可能になりました。ジャニアックはこれらの本来の⽤途を超えた技術を用いた第一人者の一人です。彼のとめどない空想の世界に、これまでにないリアリティさを組み込み創られた作品は、写真美学に新たなの価値をもたらしました。様々な国で撮影されたイメージがデジタル技術により、大判サイズのフィルムにまとめ上げられています。圧倒的な透明感を放つSFの世界が創り上げられており、この新たな作品スタイルは、セブの作品を皮切りに、その後20年間で主流なスタイルとなりました。
 
セブ・ジャニアックは、アーティストとして作品を創り続けることで世の中に示唆して行きたいという絶え間ない欲求を持つパイオニアとして、世の中を観察し、挑み続けています。現実を理解する手助けとなるもの、新たな視点のきっかけとなるもの、意味を生み出すものへ強い渇望を持っています。彼は、確立されている現象(特に宗教、科学、天体物理学)であろうと、ニッチな領域(秘教やUFO研究)であろうと、彼の想像力は時間や場所を超越して、多様性を持つ⼈类を対象としています。
 
初期のデジタル写真作品で成功を収めたジャニアックは、1995年には広告の世界で一躍時の人となります。写真からビデオへとそのスタイルを移⾏させると、すぐに著名なミュージシャンたちから声がかかり、ダフト・パンク、ジャネット・ジャクソン、ロビー・ウィリアムスらのミュージック・ビデオを手掛けることになりました。
 
その後の10年にも及ぶ多忙を極めた生活により2015年に体調を著しく崩したジャニアックは、大幅なライフタイルの変更を余儀なくされました。そして、委託制作から一線を退くことを選択し、再び初期の作品制作に立ち返り、新たな写真作品におけるスタイルを追求することになりました。「チベット死者の書」などの伝統的な東洋の文献や西洋美術史などの様々な文脈からインスピレーションを得て制作を続け、自然やアイディアを表現したアンサンブル作品を作り出しています。
 
2009年以降、ジャニアックは自身の新たな挑戦として、二重露出、スーパーインポーズ(映像に画像や⽂字などを合成する技術)、フォトモンタージュ(合成写真)といったアナログ写真の技法に制限しながら探求を続けています。
 
―Paul Frèches(ギャラリスト、キュレーターを経て、現在は在上海フランス総領事館所属⽂化担当官)
 
 
The Kingdom (2009 – 2017)
 
「The Kingdom」は『チベット死者の書(バルド・トドゥル)』から着想を得て制作されました。この経典は死後、肉体を離れた魂が、秘められた欲求や怒り、現世での記憶と向き合う様を記しています。49日の中有(バルド)の間、魂は時に悪魔の様な姿で現れますが、全ては空想の世界のものであり、恐怖による幻覚であることを説いています。そしてこの悟りの後、真の光が魂を創造神の下へと導くのです。
 
2009年から始め、長い期間を費やすこととなった本シリーズ「The Kingdom」において、セブ・ジャニアックは制作の重要な局面を迎えました。不穏な空模様を描く巨大な写真作品は、根源的なエネルギーを雲の変容で捉えています。これらの上質な作品は、現実を形作り変形させることで、私たちの⽬には⾒えない⼒を描いた一連のシリーズとなりました。表面に見えるものの更に先を捉えたいという個人的な探求による作品です。ジャニアックは常に感覚を研ぎ澄ませ、イメージという彼の表現の媒体を通す事で世の中に示唆しています。
 
ジャニアックにとっての光は、そこにある何かを照らすものではありません。それは放ち出される神聖な光であり、魂に語り掛けてくる静寂な⼒なのです。見えないものに辿り着くには、見えるものを打ち破る必要があるのです。彼は光を表現し続けていますが、そのイメージの豊かさや壮大さは、この世のものとは思えない前衛的な輝きを放ち、私たちにその意味を問いかけ続けます。物質世界における全てのイメージは精神世界の存在を示しており、未知への関心に対する新たな答えを導いています。
 
作品を作ることで、ジャニアックは⾃身の魂を解放しているのです。
 
注: ポストプロダクションによる、色補正、レタッチ処理、特殊効果などの加工はしていません。2009年より、ジャニアックはこの探求に新たな条件を設け、1850年以来使⽤されているアナログ写真の技術のみでの制作を行っています。具体的には、写真のパイオニアであるヘンリー・ピーチ・ロビンソン、エドゥアール・バル デュス、ギュスターヴ・ル・グレイなどに着想を得た⼆重露光、重ね焼き、フォトモンタージュなどです。
 
© Seb Janiak, The Kingdom, Bardo Thödol, 2010

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12 TITLES

FEBRUARY 9 - MARCH 10, 2019

開館時間 12:00 – 19:00
閉館日 火曜日・水曜日
入館料 無料
 
The MassではToluca Éditionsを開催いたします。
 
写真のタイムカプセル
 
1860年代に日本中に普及した写真館では、ダゲレオタイプそして湿板というかたちで主に肖像写真が撮影されていた。1848年、のちの薩摩藩藩主である島津斉彬によって写真機が日本に輸入されて以来、各地に定められた開港場を通じて写真を含む西洋の技術が日本の近代化を支えることになる。日本における写真機の使用目的は主に肖像と風景の撮影であり、その点では西洋と同様だが、輸入されたばかりの写真技術は日本固有の活用方法をもって全国に普及する。その文化的差異は、現存する湿板写真に窺える。西洋で撮影された湿板は金色の額縁に収められていたのに対し、日本で製作された湿板は檜製の共箱に安置されていた。その箱には撮影日と被写体の名前が墨で記載されていた。写真の私的な鑑賞を促すこの工芸的な保存方法は日本においても、写真プリント(鶏卵紙そしてゼラチンシルバー·プリント)の普及とともに失われ、それに取って代わるかたちで「写真アルバム」が新たな定型となった。写真アルバムという個人的な編集物はさらに、写真印刷技術の発展と共に「写真集」に押しのけられた。二十世紀の視覚文化において写真を中心的な存在として据えるうえで多大な影響を与えた写真集は、「書籍」というフォーマットをもって写真とテキスト(文芸と理論)の関係性をより強固なものにした。デジタル·ポートフォリオが主流となった、非物質化した写真の現在において、手書きで記載された共箱に収められたガラス板写真は化石のような存在である。
そのなかでトルーカ出版は十五年前から、豪華にして妥協のない写真出版事業を通じて、写真というモノを革新しながら現代的な存在として維持し続けてきた。デジタル画像の氾濫によって写真集というフォーマット自体が危機的状況に晒されている現在、トリュカ出版は、箱入り写真と写真集との中間点に位置する、独創的な写真オブジェを製作し続けている。その製作方針はシンプルでありながらユニークである。トルーカ出版の出版物とは、特製ケースにテキストおよびオリジナル写真プリントを含む未綴じのルーズリーフが含まれているものである。各タイトルの製作にあたって、写真家、執筆家、そしてデザイナーがそれぞれ写真、文章およびケースという構成要素を作り出し、トルーカ出版側がそれらを編集し、グラフィックデザインを施す。
 
トルーカ出版の製作物は写真集と同様に、テキストとの深い関わりを持つ。掲載されているテキストはモノグラフィーに掲載されるような作品解説でなければ、クリス·マルケルや荒木経惟らの写真集に載る、写真家自身による文章でもない。その製作物の柱となる写真の視覚的世界に緩やかに呼応する、独自の文芸作品である。また写真集と同様に、トルーカ出版の製作物は、写真·テキスト·デザインという三つの分野のマルティプル·アートに基づく点において、二十世紀の文化製作技術と深い関わりを持つ。これら三つの分野は、大量生産を視野に入れた技術インフラを必要とする。その点では、トリュカ出版の製作物は現代的な文化オブジェの象徴である。
写真、テキスト、デザイン。トルーカ出版の製作物は三重の意味でマルティプル·アートである。しかし、マルティプル·アートにおいて部数を限定することは極めて恣意的な決断であり、その背景にはだいたい商業的な打算が働いている。写真プリントや版画など本質的にマルティプルであるものを、なぜ部数限定で販売するのか。部数を限定して作品価値を高める戦略は、彫刻の経済モデルに由来する手法である。ところが、トルーカ出版の製作物には、まさに彫刻的なクオリティを見いだすことが可能であり、各製作物を部数限定で発行する意味はそこにある。個々のケースには、独創的なデザイン、豪華な文芸出版とヴィンテージ写真を束ねる、統合的な作品が収められている。トルーカ出版の製作物を鑑賞するうえで重要な要素は、その感触である。写真の粒子(その点において、カンディダ·へーファーの高解像度プリントから森山大道による粒子の荒い東京風景写真まで、トルーカ出版の嗜好は幅広い)、最適な印刷紙の追求(良質な写真集には必ずよい紙が選ばれている)、そして形状と材質をもって写真および文芸作品の世界観を凝縮するケース。これらはすべてテクスチャである。
 
より本質的なレベルで、トルーカ出版による製作物の特徴は写真の時間性を複雑化することにある。一枚一枚の写真は、撮影された時点で独自の時間性を有する。その画像に含まれる記号によって、また写真と同じ紙面に掲載されたテキストとの関係性によって、その時間性が複雑化する。ある蒐集家がトルーカ出版による作品を購入すると、その作品は特製ケースに保護され、外気に触れずにゆっくりと経年変化していく。トルーカ出版による製作物は、写真のタイムカプセルである。
実際に一つの製作物を手にしてその特製ケースを開けると、一般的な書籍のように直線上でない、その出版物独自の空間性が繰り広げられる。トルーカ出版の多くの製作物は未綴じのルーズリーフを使用しているため、写真および文芸作品の体験がより自由になり、展覧会のように複雑なパターンをもって構成される。デュシャンによる『トランクの中の箱』を連想されるものである。ケースには、綴じられた本の代わりに折られた用紙が収まっている。折は空間を区切り、新たな次元を生み出し、読書体験において複雑な時間性を生み出す。折とは非言語的な結界である。
 
コンパクトな書斎にトルーカ出版が発行した全42点の製作物がぎっしりと並ぶ姿を想像してみよう。その個々のタイトルには小宇宙のように、独自の時間性と世界観が含まれている。写真愛好家として、このユニークにして有機的な出版世界をさらに複雑化するであろう、トルーカ出版による今後の製作物の発行を期待するばかりである。
 
大澤 啓(東京大学総合研究博物館インターメディアテク特任研究員)
 
 
トルーカ・エディションズはアレクシス・ファブリーとオリヴィエ・アンドレオッティの二人により2003年に設立され、パリを拠点とするユニークな出版社です。フォトグラファー、ライター、デザイナーとのコラボレーションにより制作されるカスタム・メードの外装は、20世紀初頭に生み出された「アーティスト・ブック」という新しい芸術形式を用いた、ハイブリッドなアート・オブジェです。
 
オリヴィエ・アンドレオッティはグラフィック・デザイナー、アーティスティック・ディレクターとして、カルティエ財団現代美術館、ジュ・ド・ポーム国立美術館、ドーハ・イスラム美術館、パリ市立近代美術館、メキシコ国自治大学付属チョポ美術館などで、定期及び限定出版物、展示カタログ、コーポレート・アイデンティティ(CI)、シグナル・システム、展示デザインなど多岐にわたる分野で活躍しています。また、ルイ・ヴィトン、ヴーヴ・クリコ、ヘネシー、ヴァン・クリーフ&アーペルなどの様々な一流ブランドとのプロジェクトに携わっています。
 
アレクシス・ファブリーは、The Anna Gamazo de Abelló Collection及びThe Leticia & Stanislas Poniatowski Collectionにキュレーターとして関わりながら、「Urbes Mutantes(国際写真センター(ICP)、ニューヨーク、2014年)」、「Latin Fire(CentroCentro、マドリッド、2015年)」、「Daido Moriyama, Daido Tokyo(カルティエ財団現代美術館、パリ、2016年)」、「Transiciones(シルクロ・デ・ベジャス・アルテス、マドリッド、2016年)」、「Géométries Sud(カルティエ財団現代美術館、パリ、2018年)」などの展示でキュレーションを担当。プライベート・コレクションのコンサルタンティングをする一方で、メゾンエルメスの副アーティスティック・ディレクターとしても活動しています。
 
VOL. 28 • Daido Moriyama, Olivier Andreotti, Color, 2013 © Toluca Éditions